【嗚呼、人材採用狂奏曲】

【嗚呼、人材採用狂奏曲】


振り返ると2021年は2月にミャンマーでクーデターが起き、ミャンマー進出コンサルティングの会社を経営する私たちは、これまで10年行ってきた経営を、ちゃぶ台返しされたような状況に陥った。アメリカがミャンマーに対して完全な経済制裁をしたら、アメリカに追随する日本にいる私たちの事業は撤退せざるを得ない。


「クーデター発生のニュースを見てすぐに情報収集のためミャンマーに電話しましたが、電話回線もインターネット回線も繋がりません」電話口から聞こえるのは顧客は嘆息のみである。


その時、私たちの会社を心配して連絡してきたのは、うちの会社に融資してくれている信用金庫の支店長と、当社にミャンマーでの事業を委託している会社の方だった。信用金庫の支店長は、「困っている時こそ頼ってください」と言った。


クーデターが起こる前から新型コロナウィルスの影響で事業規模が縮小していた当社では、日本本社で、育休から戻ってくるスタッフを戻すことができなかった。本当は復帰して働いて欲しかった。


春が過ぎてまた1人スタッフが退職し、ミャンマーの政治は膠着した。日本のメディアでもミャンマーの大量虐殺の映像が流れており、当社の事業に対して、経営者の自分たちでも明るい未来が見えないまま、夏が来た。世界中で新型コロナウィルスが流行し、ミャンマーに住む親族2人が、新型コロナウィルスの大流行によって亡くなった。義理の父と義理の兄は、もらい事故のような感染の後、多額の費用を払って入った病院で事切れた。病院には医療用酸素の管理人がいない。だから酸素飽和度が低くなってもすぐに酸素投与できない。それであっという間に人が死ぬ。


そもそも医療用酸素が足りないミャンマーでは、新型コロナウィルスにかかって、人がバタバタ亡くなっている。ミャンマーで医療用酸素を提供する会社や日本大使館、JICAに、医療支援・人道支援だけはするように一方的に電話やメールをする。一市民のか細い声でも、社会を良くするための陳情は表面したほうがいいと思った。医療用酸素がミャンマーで足りなかったのは誰のせいだ? なぜ医療崩壊が起きたのか? 権力を奪取するクーデターを容認できないとしても、職場ボイコットという手段のアンチテーゼが、医療崩壊を誘発させなかったのか?


いきなり父を亡くした甥と姪の面倒を、家族総出で見なければならなくなった。ミャンマー人が今、切望しているのは、国外脱出、脱出、脱出。甥や姪の海外留学ビザ取得支援に奔走し、時は秋になっていく。


日本のワクチン接種率が高まり、10月以降、新型コロナウィルス感染者数は激減した。私たちが日本国内で行っているミャンマー人に対する人材紹介業は少しずつ息を吹き替えしてきた。


経済産業省の海外支店であるジェトロ・ミャンマーに電話したら、「ミャンマーで事業をやるかどうかは各法人の判断次第」つまり自己責任で行ってということだ。欧米諸国もミャンマーの軍人関係者以外には経済制裁をしない。地場経済を動かさない限り、ミャンマー人は飢えてしまう。ミャンマーでいつまでも経済活動しないという抗議姿勢は、残念ながら、今ミャンマーで生きる人々を救うための現実的な解ではない。私が相手にしているのは、今すぐに自分の人生を改善したいと願うミャンマー人である。


ミャンマー人が今いちばん欲しいもの、それは仕事だ。仕事を紹介するために、人材紹介業の基盤強化が急がれた。ある組織が、私たちの会社のミャンマー人への人材紹介に対して投資をした。発展途上国の人に仕事を与え、発展途上国の人が豊かになり、地球上の経済格差が縮まっていく。それと同時に日本で人手不足が解消される。こうした私たちの働きに期待をしている組織が現れたので、私たちは新たに自分たちの人材を採用しようと求人募集を出した。


仕事とは、その仕事をやる人のやる気があって成り立つと言っても過言ではない。能力があってもやる気がなければ、就職しないし、仕事のパフォーマンスは上がらない。やる気は、大方は給与によって生み出される。やりがいもある程度は左右されるが、給与を得ることを第一目的として働いている人がほとんどだろう。技能実習生や留学生、就労ビザを取得して働く外国人は、ほぼほぼ養わなければならない家族が母国におり、経済的に発展したいという、彼らにとっては親孝行で自然でハングリーな欲求を、日本人は「仕事のやる気」と勘違いして、日本での仕事に取り組んでもらっている。



私たちは、日本企業の人事担当者に、「ミャンマー人は給与を払えばきちんと仕事を行う」と言い聞かせ、その他人材管理のノウハウをあれこれ伝授して、人材を紹介する。発展途上国の人の止むに止まれぬハングリー精神を、日本企業のエンジンの歯車の中にはめ込む作業である。


ところが今回は、自社の人材募集である。当社で日本人7人を新たに募集する計画を立てた。202111月現在、日本ミャンマー支援機構株式会社は、日本に7人、ミャンマーに6人の計13(日本人6人、ミャンマー人7)体制だ。創業時は3人で、アパートの1室でファックス複合機と壊れそうなノートパソコン1台だけで始めた事業が、何とか日本とミャンマーで事務所を構えるようになり、10年経った。今後10年も生き残る会社になるために、人事体制を大幅に刷新しようというわけだ。


当社の日本本社にいる短期アルバイトのKO大生Sさんが、求人票を考え、募集情報を多くの求人メディアに出した。


そして応募してくる人々は、年代、性別、職歴等が全く一致しない求職者だった。学生、主婦、主夫、エンターテイメント業界の元自営業者、フリーター、定年退職後の高齢者などなどである。


第一に、私たちは来年4月から1年間働いてくれる学生を1番求めていた。


第二に、私は働く時間は集中して仕事をしてくれる主婦パートの方々は大好きだが、そうでない主婦パートの方々と話を合わせることがどうしてもできない。


面接をしても、大方の主婦パートの方々にとって、横浜の隅っこの冴えないマンションで会社を運営する私たちは、ただの弱小経営者にしか見えない。もっと設備の良い、でかい会社で働きたいと思うのは当然の欲求だろう。


しかし私たちは人生を賭けてミャンマー関係の企業を経営しており、ミャンマー関連の企業として日本一の実力・実績を積むことを本気で目指している。


日本では結婚すると結局は女性が家事を行う負担が多いのは事実である。だが仕事をするのに性別は関係ない。家事を行うのも性別は関係ない。仕事の時間が1時間でも取れるのであれば、「結婚してから今まで仕事をしてこなかったから、あれができないこれができない」とのたまい、努力しないのは許されない。仕事の拘束時間だけは、仕事に全集中だと言いたいのである。


経営者として当たり前のこのノリが、主婦の求職者を遠ざけているのでは

と思えてならないのは、採用する主婦が、当社を辞退したからだ。


アルバイト、パートは楽して稼ぎたい。これは当たり前かもしれない。ただ、楽して稼ぐ場合に成長は無い。アルバイト求職者は成長なんかしたくないかもしれないが、どんな立場の方でも、成長しないより成長した方が、社会は良くなると思う。もしアルバイトをしている主婦が成長すれば、その子供たちにも良い影響が及ぶし、家庭内の男女格差も縮まるかもしれない。


私の周りにはたくさんの大学生がインターンとして働きにやってくる。特に女性の大学生に、結婚しても出産してもいつまでもキャリアをあきらめてほしくないと思い、結婚して子供が3人いて、家庭と仕事を両立しながら働く姿を見せている。結婚して、夫婦どちらが家事を負担するかと言うのは、結局はどちらが仕事ができ、どちらが多く収入を稼ぐかという競争の後に決定される。これを大学生にこんこんと伝えている。


私は配偶者が外国人なので夫婦別姓を選択でき、子は全て私の姓を名乗っている。大々的に成功している経営者ではないが、親から会社を引き継いだ二世・三世ではない創業者として、はちゃめちゃに楽しく仕事をしながら、私たちより成功している経営者の顧客と交流し、新たな世界を学んでいる。


日本は親から引き継ぐ資産が次世代の裕福度を決める確率が高いが、そんなものくそくらえと、がむしゃらにのし上がろうとして、ふと気づくと、様々なことを乗り越えているという人生が、楽しいのだ。


一方でスタッフには、拘束時間のみ集中して働いてもらいたいだけである。私がガツガツしている野心家であっても、当社の社長が50ドルだけを持って30年前日本に亡命してきた難民で、一年の売上高10億円を目指している成り上がり者であっても、スタッフが野心家である必要は無い。淡々と楽しく仕事をする人を募集しているだけである。


望むべくは、私たちが行っている事業が小さくても、世界の格差縮小につながっていたり、海外と日本の交流につながっていたり、日本の地方創生に役立っていることを応援してくれれて、どんな国籍の方でも一人一人を大事にしているポリシーに共感してくれるスタッフであれば、とってもありがたいのである。


それなのに履歴書を送る際に、あれこれ指示を出せと電話をしてくる求職者がいて、不採用にしたら、「話が違う」とクレーム電話をかけてくる。「ミャンマーで業務経験のある俺でないと、土地開発の基礎ができない」などとのたまってくるから、「当社の求人票を見ましたか私は営業か秘書を募集してるんですよ」「秘書ってなんだよ」「だから、秘書のイメージが湧く人を募集しているんですよ」などと言い合う。


はたまた電話で問い合わせが来る。「育休取りたいんですけど、取れますか?」採用試験の前に育休? 働く前に育休?

スタッフ1人を雇うために、事務所を購入し、光熱費や通信費を捻出し、パソコンを購入し、あれこれ整えるのにいくらかかると思ってるんだ! コスト感覚ゼロとはこのことである。育休は権利だが、せめて当社の利益拡大に貢献してから、休む間も給料を得たいと言って欲しい。会社に対して何も役に立たないうちから、自らの利益だけが欲しいと言われても、こちらは見ての通り予算は青天井じゃないんだから、って話になる。


ここで、自らの育児の経験を、持ち出してはいけない。一人一人で個人差や個性があるのが育児であり、産休や育休は、個人によって取得すべき日数は異なると思う。絶対に自分と比較してはいけないが、自営業者は産休も育休もないんですよ。働かなければ収入は無いですから。と、その電話問い合わせした方に言ってみたかった。


面接中に、他の会社と比較して入社を決めますと言う人もいる。もう、どうしたもんかと思う。果ては仕事の実力を見せないうちからテレワークをしたいと言う。実力がない人を遠隔で仕事させても、効率が上がるわけがない。


こうなるとなんだか愚痴を書いているようにしか見えないが、人材採用活動をするたびに、採用する人より10倍もの、多種多様な方々とお会いして、私はますます、きれいな言葉で言うと人間が磨かれると申すのかもしれないが、実態はオニババ風になっていく。人材紹介先に偉そうにあれこれ助言している自分が、何だったんだ、となる。自分の会社の採用活動で、てんてこまいである。


来たれ! ミャンマー関係の仕事で楽しみたい方! できれば成長したい方!


よろしくお願いします。


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(20211120日 みやまさえこ)